書道に関する基礎知識 2

落款の書き方

 落款とは、落成款識(らくせいかんし)という言葉を略したもので、「落成」は 書画の完成を意味し、「款識」は署名・捺印のことを表しています。
 しかし、中国で落款を入れることが盛んになったのは、元代(13〜14世紀)です。日本では、室町時代に、宋・元・明の書風が伝えられ、それらの書跡に印が押してあるのを見て、禅僧たちが真似るようになってからだといわれています。かな作品は少々遅れて落款を入れる習慣がはじまったようです。

1 落款の決まり

 作品に対する署名ですから、一番短いのは、名前です。苗字+名前はありますが、苗字だけは少ないようです。それ以外に付け加えるものを書くと、次のようになります。これは漢字作品の例で、語順が漢文と同じになります。漢字仮名交じりでは、日本語の語順に変わります。

形 例 秩父岩魚 という名前だとします。
印のみ −
だれが 岩魚
いつ+だれが 丁亥六月 岩魚 (二〇〇七年六月 岩魚)
どこで+だれが 於秩父山中 岩魚 (秩父山中にて 岩魚)
だれが+なにを 岩魚 書
いつ+だれが+なにを 丁亥六月 岩魚 書
だれが+なにを+どこで 岩魚 書 於秩父山中(秩父山中にて 岩魚 書く)
など

 これ以外には、年齢や状況を表す言葉が加わる場合もあります。
なお、年号を書く場合は、干支か元号が多く使われてきましたが、現在は、西暦(キリスト教暦)を使うのが一般的になってきています。横書きで左から右に書く場合、アラビア数字を使う人もいます。月の名前は、他にも書き方がありますが、作品の内容にあったものを使ってください。(漢字だけの作品に和語の文月とか葉月は使えないということ)

臨書作品の場合は次のようになります。
古典名+だれが 蘭亭叙 岩魚
だれが+臨 岩魚 臨
臨+古典名+だれが 臨 蘭亭叙 岩魚

仮名の場合は、次のようになります。
印のみ  −
だれが いわな
古典名+だれが 一茶句 いわな

だれが、を表すのに本名以外のものを使うことがあります。雅号や室号です。

雅 号

 雅号とは、芸術家・文人・学者らが、自分の世俗的な名前や身分を離れて風雅を楽しむためにつけた名前のことです。いわゆるペンネームで、最近の言葉で言えば、アバターやハンドルネームに近いものです。つけ方に決まりはありませんが、ゆかりのある地名・信条・趣味などからつけ、謙譲語を使うことが多いようです。また、習い事をしている場合は、師匠の一字をいただくというのが一般的なようです。

室 号

 室号(堂号)とは、自分の書斎や家などにつけた、趣深い名前のことです。基本的には自分の好きな名前をつければよいのですが、家屋の構えによってある程度は決まってきます。雅号とおなじように、謙譲語を使うことが多いようです。

(部屋・書斎の一般的な語)堂 斎 室 など
(自宅を謙遜して指す語) 庵 亭 居 屋 軒 洞 など

2 落款印について

落款にだけ用いられる印で、本名を刻した印と雅号を刻した印があります。室号印も使われることがあります。 白文+朱文の順で押すのが原則ですが、最近は、印を一つですませる作品の方が多くなってきています。

白文と朱文

 文字の部分が浮き上がるように彫ってあり、押したときに朱の文字が現れるのが「朱文」、逆に文字の部分を彫っていて、押したときに白く文字が現れるのが「白文」です。
 自分の本名を刻す印は白文で、雅号印は朱文でつくるのが原則です。

 白文
 朱文
名前の入れ方

姓名印 例 秩父岩魚 大洞好 大洞よしみ

1 日本人に多い姓2文字名前2文字の場合の標準的な配置の仕方。作品を読む順と同じです。横書き作品でも右から左に書いてある場合は、同じです。
2・3のように奇数になった場合は
4 印の字を補ったり、名前の一部だけを使って4文字にすることも可能で、字のバランスがとりやすいことから、広く行われています。
4〜8 横書き作品で左から右に書いた場合、本文に倣って印もそろえます。

雅号印 例 岩魚

1 雅号は、1〜2文字が多いので、図のようにふります。日常使う認印には、2 のように縦に書くものもありますが、落款印では、あまり使われません。
3 左からの横書きの場合は、姓名印同様本文に倣います。

落款と落款印を押す場所

1 半切などの縦長の紙に1行書きの場合 落款は、左脇になります。
2、3 縦書きの紙に2行以上書く場合 2の位置に書く場合と3の位置に書く場合があります。1と3の場合は、落款を書く場所を本文を書く前に考えておいてください。
対聯は、2枚ひと組なので、落款は、左端のみになります。その他特殊な例として、2枚の紙に左右対称に書く方法もあります。この場合、落款も左右対称の位置にきます。

4 右から左への一字書きの場合 落款は縦書きで左側にきます。これは、縦書きの1行の文字が1文字になったと解釈しているわけです。
5 左から右への一字書きの場合 落款は横書きで左下にきます。
6 横書き2行以上でも、落款は横書きで左下にきます。

印の大きさの目安
印は、紙の大きさというより書かれた字とのバランスで押しますから、本文と落款の字で決めます。同じ字数でも線の太さや墨の濃淡などで違ってきますから、書と印とのバランスを覚えるために、練習書きの時から印を押す習慣をつけましょう。下記のものは、おおよその目安です。

         

紙の大きさ(単位:cm) 印の大きさ(単位:cm角)
3 おまけ

書に押す印の種類

 落款印以外に書作品に押される印があります。
・引首印‥‥作品の右上に押す印のことで、関防印(冠冒印)ともいいます。作品の風雅を高めるために押すもので、必ず押さなくてはならないというものではありません。長方形や楕円形の成語印が多く用いられます。
・押脚印‥‥作品の右下(近年は左下もある)に押す印。堂号印・成語印や遊印が用いられます。
・遊 印‥‥押す場所にとくに決まりはなく、本文中の弱いところを補ったり、強調する役目があります。 成語印よりもさらに自由な語句を刻したものや、文字以外を刻した肖形印などがあります。

捺印の道具 ・印泥(いんでい)  朱肉のことです。色の違いで何種類かありますが、中国製の光明、美麗、箭(竹冠+族)などが有名です。認印を押すときなどに使われている速乾性のものに比べ、乾きの遅いものが多いので、注意が必要です。
・印矩(いんく)   印を押すときにあてがうもので、T字とL字があります。大きいもののほうが安定します。
・印辱(いんじょく) 印を押すときに下に敷く台です。なければ、平らな硬い台の上に半紙を数枚重ねたもので代用できます。